第92回 オクレさん、ありがとう2025:05:31:22:39:57

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

あっはっは、そうですよね。と思わず笑ってしまった。
目の前には、健康診断の診断医がいる。私が愛してやまない吉本新喜劇のオクレさんそっくりなのだ。

Drオクレいわく、「そりゃ、体重が10㌔も減ったら、声帯もやせて、声もかれるわ」。
それが、高度医療に携わる専門医には分からないらしい。
「なんでかな、薬の副作用かな」と毎度、首をひねっている。
それを、およそ高度医療とかかわりがないであろうオクレさんがひとことで覆したのだ。

似たような体験を、病院の皮膚科の医師との間でしたことがある。「意識してメシの量を増やしたら、傷の治りが早まったような気がする」と言ったら、「それはわかりません」と言下に否定された。エビデンスがないと言いたいようだったが、診療所の皮膚科医から、「栄養が足りてないと治り遅いですよ。薬だけでは治りません」といわれたことがある。
オクレさんにせよ、人々の生活に近い診療所の医師と、そうではない、エビデンス命(でないと困るのだが)の病院医師とは、おのずと、病気に対する見方が異なるのであろう。

最近、病院通いが日常となって、病院は診療所とはくらべものにならないぐらい、高度に医学的で、人々の生活にとっては、診療所医師と病院医師の両輪の関係が成り立ってこそ、高度化した最近の医療が成り立つのだろうと感じている。

そのどちらにも属さない医師たちは、今後の医療改革のなかで、ある種の選択を迫られているといってもいいだろう。がん医療の最先端にかかわる医師が嘆いていた。地元の医師会で講演した時のこと。大腸がんの遺伝子変異に対応する最近の治療について、大腸の直腸側と結腸側ではがんの性質が異なり、それに応じた治療が定着していると話したら、全く話が通じなかったという。近年の医療の潮流に関心をもたねば、自らの地域医療での立ち位置も分からないであろうに。そうした医師の存在が医療費の増大の一因ではないかとも思ってしまう。

<2025/5/31 掲載>