第78回 最良の医療ボランティアは被災者自身2024:02:28:22:48:51

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

元旦の夕方、自室で居眠りしていると、「地震やで!」と家族に叩き起こされてからほぼ2カ月。若い記者が現地に駆けつけるのを横目に、当方は日々ニュースをみつつ、これまで29年間の災害取材の引き出しをひっくり返し、節目で特集記事を書いてきた。今回の地震の特異性は、その地震エネルギーの大きさもさることながら、29年前の阪神大震災にタイムスリップしたかのような被災地の有様にある。
今回ほど、被災地に駆けつけた支援者たちから、「過去の教訓が全く生かされてない」との怒りの声があがる災害は見聞きしたことない。

いきなり何の前触れもなく大地震が起きたわけでもなく、17年前からたびたび中規模の地震が起きていた。ことに、最近2~3年は徐々に地震の規模も大きくなっていた。
被災地は道路が寸断され、インフラの復旧もままならない。つまり、支援が満足に届かない。こうした状況のなか、自らも被災し疲弊した、看護師たちが大量退職する意向を示しつつあるという。しかし、被災者は平常時と同じように医療機関に助けを求める。
離職により、復興後も看護師が能登に戻らなくなることを恐れ、厚生労働省は解決策の検討を始めたという。このままでは、能登地域の医療過疎に拍車がかかることになるというわけだ。

こうした状況は想定しうるわけで、事前の対策を考え、個々の住民、もしくは自治会レベルで備えているべきだろう。耐震化や家具固定を実施する。食料や簡易トイレの備蓄、感染症対策などは特別なことではなく、どこの地域でも取り組んでいることだ。

平常時でも高齢化に伴う医療費増大を抑えるため、健康の自己管理のノウハウは世の中にあふれ、医療の現場は病院から地域へと還りつつある。こうした時代には「医療は国民の財産」であることへの認識を求められているのだ。このことは平常時でも災害時でも変わらない。まずは自分の医療ボランティアは自分であるべきだろう。医療者も同じ被災者なのだ。災害の形態は千差万別であり、ひとつとして同じ災害はない。ただいえるのは、平常時にできることをやっておき、いざという時のリスクを排除しておくことでしか対策はたてられない。能登半島の状況をみるにつけ、明日は我が身と感じている。

<2024/2/28 掲載>