第70回 日本人と近代医療2023:01:11:05:23:39

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

今年は、作家、司馬遼太郎の生誕100年にあたる。
司馬さんの代表的作品の一つである「坂の上の雲」の中で、コロナワクチンがなぜ日本で〝〝遅れた〟のかについて考えるヒントがある。

「坂の上の雲」には、欧米人はアジア人に比べ、環境順応力が低く、そのため、かれらが植民地支配をするときにはじめて手掛けることは、植民地の風土病に感染しないように、ワクチンを開発することだったという意の記述がある。
このことは、公衆衛生の専門家の医師も指摘していた。だから、日本がワクチン開発に〝遅れた〟のは競争力が弱いのではない。それどころか、ips研究がmRNAワクチン開発に果たした役割は大きいし、ヤマサ醤油がワクチンの原材料をワクチン開発に提供し続けている。ワクチン投与後の炎症を抑える非常に重要な生体高分子を提供しているのだ。

欧米人とアジア人の体質の違いは抗がん剤の反応でみられることも良く知られている。
また、一般的に、生活習慣の欧米化により、一部のがんの罹患率が増え、生活習慣の見直しによりそのリスクを半減させることが可能だと指摘されている。

近代医療を否定する気は全くないが、少なくとも、日本の風土にあった生活習慣の見直し、ストレスで病気を作り出している働き方の改善も含め、改善していく必要があるのではないか。この数年ワクチン開発狂騒曲を目の当たりにするにつけ、困ったときの神頼みならぬ、薬だより、医者だよりに対する危惧のほうが大きくなってきた気がする。

今後ピークに向かう高齢化と人材不足のなかで、病人を抱えきれなくなる医療界でも、脱病院化への動きが顕著になりつつあり、在宅医療で生活改善に積極的に介入し、患者数を減らそうという方向に向かっている。短い人生、禁欲的になる必要は全くないが、日常的な栄養管理、運動不足の改善で、少なくともバランス(つじつま合わせ)を保つ努力は必要だろう。感染症に打克つためにも。

<2023/1/11 掲載>