第66回 目指すのはベストかパーフェクトか2022:09:07:06:46:24

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

「ベストを尽くす」のか「パーフェクトを目指す」のか。
故・稲森和夫氏は、フランスの経営者と議論をした際、「経営者はあくまでパーフェクトを目指すべき」と論破したという。
「ベストを尽くすかどうか」は身内の論理。「パーフェクトを目指す」のは、さにあらず、顧客のために全身全霊を尽くすことだ。

先日、あるがん治療医に話をきいた。
最近導入された医療機器が、原発がんから他臓器に転移したがん罹患者の治癒率の向上に大きく貢献する可能性があるということだった。
ただし、問題は、件の医師の分野と、原発がんの分野の医師との連携がなかなかうまくいかないらしいということだった。最新の機器が導入されてもそこに患者が回ってこなければ、治癒率向上に貢献することは難しい。
なぜそうなのか、と件の医師に聞いたところ、「一口にがん医療といっても、それぞれの分野の治療医には文化があって、その壁を乗り越えるのは容易ではない」という。

文化?たとえば、行政批判でよくいわれるところの「縦割り」ということなのだろうと解釈した。
前述の稲森語録でいうと、ある分野の医師たちはその分野の向上には「ベストを尽くす」。しかし分野横断的なコミュニケーションには不熱心だから、結局、患者は最新機器の治療に行き当たらず不利益をこうむることになってしまう。

件の医師は、最新機器の開発の裏話として、「開発者はがん治療医であり、患者の生存率をいかに高めるかのみを追究した結果だった」と教えてくれた。これがまさに、「患者(顧客)のためにパーフェクトを目指す」ということになるのであろう。
今後も、件の医師の活躍ぶりに注目し、果たして、どれほど患者の生存率の向上に寄与していくのか注視していきたい。

<2022/9/7 掲載>