第2回「使えるものは使おう!それが患者の権利です。」2011:09:19:13:36:00

大阪南医療センター 地域医療連携室・がん相談支援室 主任 医療ソーシャルワーカー 萬谷和広

第1回では、「がんと付き合うための生活基盤」というテーマで、社会全体での仕組み作りが大切というお話をしました。とはいえ、「たった今」何とかしたいという方は多くおられます。今回は、具体的に経済的な問題が生じた時、まずどうするかを考えてみたいと思います。

経済的な問題は、二つの側面が考えられます。今までの日常生活から、新たな医療費という支出が増える側面と、場合によっては病気で働けず、今まで働くことで得てきた収入が減るという2つの側面です。これが重なる、もしくは一方だけでも経済的な問題となりえます。それぞれの側面で利用できる社会制度はありますが、今回は、支出である医療費に関して、誰でも利用でき、そしてまず利用すべき制度である高額療養費制度に関して見ていきましょう。

例えば、こんな方がおられました。50代後半のAさん。会社の健康診断で再検査の結果を受けました。後日、病院で検査を受け、大腸がんであることが分かりました。医師に入院して手術を勧められ、「手術をするとなると、どの程度費用がかかるか不安」とがん相談支援室に来室されました。

大腸がんの手術は内容や入院期間によりますが、例えば腹腔鏡下で結腸悪性腫瘍切除術を実施した場合、通常、130万円程度必要と言われます。これだけの支払いは、とても大変なことです。しかし、医療費の支払いには上限があるのをご存知でしょうか。

病院の窓口で支払った1カ月の医療費が、一定の額をこえたとき、こえた分が保険者から払い戻されます。これを高額療養費制度といいます。この上限額は、年齢と所得によって異なります。70歳未満のAさんの場合、Aさんが上位所得者であれば150,000円、一般所得者で80,100円、低所得者で35,400円、1か月の窓口支払いが越えた際に払い戻しの対象となります。具体的には、以下の表となります。

【70歳未満の方 医療費の自己負担限度額(1か月あたり)】

世帯区分

自己負担額

上位所得者(標準報酬月額53万円以上)

150,000 +(総医療費-500,000 円)×1%

一般

80,100 +(総医療費-267,000 円)×1%

低所得者(住民税非課税世帯)

35,400 円 

Aさんは、一般所得者、入院期間は3週間、腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術を行い、窓口負担分は36万円(3割負担)だったとします。これを計算式に当てはめると、以下のようになります。

80,100円+(1,300,000(10割の費用)-267,000円)×1%=90,430円
36万円(窓口で支払った額)ー90,430円(自己負担限度額)=269,570円
戻ってくる金額は、269,570円。実質の自己負担は、90,430円となります。なお、ここには、食事代や個室代、保険外診療費は含められません。

このように、医療費の支払いには上限があり、一定額以上は払い戻されますので安心して治療に専念していただければと思います。そのため、まず医療費という新たな支出に対して利用すべき制度は、高額療養費制度です。使える制度は使いましょう。また、この高額療養費制度以外にも医療費助成制度がございます。対象者は、状態によりますので、経済的に不安を感じたら各医療機関の医療ソーシャルワーカーにご相談いただくことをお勧めします。