第53回 自己責任ならぬ、自己防衛のすすめ2021:07:04:07:13:11

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

「(第4波の状況下で)コロナで重症化すると助かりませんよ」あるがん専門医に会うと、いきなりそんな話を向けられた。だから、死にたくなかったら、早々にワクチンを接種せよ、というのだ。

その医師が、所属する病院で、コロナ患者の治療支援を担当したときのこと。
「重症者の呼吸器管理なんて、熟練者でないとできない」現実をも目の当たりにしたという。「われわれが消化器外科の治療を20年学び続けてきた労力に相当する経験と知識が必要だと感じた」のだそうだ。
だから、いくら「ベッド数」を確保したところで、そんな熟練医師の数は限られているし、急に増えはしないから、焼石に水なのだ。やるべきことは、ワクチン接種か、感染した場合、初期の段階で治療をしてしまい「重症者」を出さないことでしか手立てはない、ということになる。

こうした声は、診療所レベルの最前線で、コロナ患者を治療している(軽症のコロナ感染者に投薬による治療を行っている)医師たちからも声が上がり始めている。そう対応してしまえば、「風邪と同じだ」と彼らはいう。感染して保健所に電話するより、コロナ患者を治療している診療所に駆け込んだ方が身のためなのだろう。

わざわざ、問題を複雑化(関係者の立場を重視)して、破綻を招いてしまう日本の危機管理。先日、ゲノム医療の専門医からもそんな話を聞いた。
個人の遺伝子変異を特定して、それに合う治療を行うのだが、いわば医療の革新的な技術が適用されるのは、現状では「進行がんで治療の選択肢がなくなった場合」に限られる。
革新的な技術であれば、初期から対応されてしかるべきだが、そうはなっておらず、わざわざ重症者をつくりだしているようなことになっている、としかみえない。

ゲノム医療の専門医は、ゲノム医療への欧米の対応と比較し、「欧米のように社会にどれほどインパクトを与えうるのかという議論にならず、医療保険制度の中での適不適でしか考えられていない。いわば宝の持ち腐れだ」と日本の対応を断じる。
日本の為政者がいうところの「自己責任」は、現状においては「自己防衛」と言い換えたほうが、われわれ国民の身のためになりそうだと考えざるをえない。
<2021/7/4 掲載>