第48回 いつかきた道2021:01:28:00:35:24

産経新聞大阪本社 地方部編集委員 北村 理

新型コロナ感染が判明後、入院・宿泊待機の患者が、全国で1万5千人にのぼるという。
こうした状況をみるにつけ、「医療崩壊」とは、医療機関のひっ迫のみならず、それだけ多くの人が医療を受けられずに、重症化の危機に直面していることをさすのだろう。

世界一のベッド大国で、どうしてこのような状況になるのか。次第にみえてきている、その背景として、いわく、日本は民間病院が多い、規模も中小規模の病院が圧倒的に多く、機能的にそもそも急性期の重症患者を受け入れられない。したがって、急性期の患者を集約する施設(公立病院をコロナ専門にする、新たに専用病棟をつくるなど)をつくり、急性期を脱した患者を、ほかの医療機関で受け入れるべきだと指摘され始めている。

実際、死者がゼロ(1月末日時点)の島根県では、受け入れ病床数が隣の鳥取とともにトップクラス。早期に入院させ、重症化を防ぐ。高齢者施設のウイルス防止策の徹底をすることで、危険因子をとりのぞく取り組みを継続している。高齢化率の高い地方ならではの危機感なのだろうが、基本に忠実であることが、医療崩壊を招かない証左であろう。
こうしたコロナ禍による医療崩壊の構図は、かつて、高齢化が進む中での救急医療の崩壊が叫ばれた際にも同様の指摘があり、地域での救急機能の集約化とともに、過度に集中させない振り分けのシステムが構築されてきた。

そうしたシステムをもつ神奈川では、熱心な救急医療対応で知られる民間病院が、コロナ対応の専門病棟をつくり、日ごろ医療ネットワークを形成している診療所の医師らに協力を求め、患者の選別による早期対応を進めている。
こうしてみると、医療崩壊どころか、よいサイクルをつくり地道に継続すれば十分にこれまでの体制のなかで対応ができるということになる。都内でコロナ患者を1000人以上受け入れている民間総合病院の関係者にきくと、医療崩壊など全く起こしていないと話す。

2025年には団塊の世代が後期高齢者となり、30年には国民の3割が高齢者となる。おのずと、いうところの「多死社会」となる。加えて、30年は南海トラフ地震など巨大災害の発生が懸念されている。われわれの敵は感染症だけではない。
起こりうる事態を見通し、事態を悪化させないための早期対応の仕組みをどうつくるのか。
危機から目をそらさず、社会を守るためには、日ごろから死守すべきものを見据え、いつ何時でもつかんで離さない執念(危機管理)が今、われわれに求められているのだと思う。

<2021/1/28 掲載>