第45回 コロナ禍で、今年は在宅復帰元年?2020:10:31:16:15:56

産経新聞社 社会部記者 北村 理

知人の在宅診療医師によると、ここ数か月で在宅での療養を選択する患者が急増しているそうだ。理由は、新型コロナの感染拡大で、家族の見舞い、看取りがままならなくなっているからだ。
このことは、10年ほど前に、院内助産所が話題となったものの、その後伸び悩んだことと似ている。院内助産所は助産と医療連携の工夫の中から生まれたものだが、そもそも、病院という場所は、患者でない不特定多数(家族や親族)が日常的に出入りすることに限界があるのだ。

在宅診療については、コロナ以前に増加傾向にあり、患者数は80万人、診療報酬の算定が1兆円にのぼる見込みといわれている。こうした状況下で、コロナの影響が後押しするとなると、在宅での療養を選択する患者が伸びていくだろうことは想像に難くない。筆者の居住地でも、在宅診療をうたうクリニックが目に見えて増えてきている。

がん治療でも外来が当たり前になってきているし、医療の進展で、全般的に寿命が伸びていくと、コロナ禍による医療現場がそうであったように、病院に収容できる患者数が限られてきて、自然と在宅診療の患者数の増加にいたるだろう。厚生労働省も、今後30年後医療福祉スタッフの大幅な増加(就業者の5人に1人)を見込んでいる。
在宅医療の技術も向上してきており、クリニック間、地域間でケアの質にばらつきはあるものの、在宅診療における看取り等のケアの方向性については見通しは暗くはない。

課題のひとつは、病院から在宅へのスムーズな移行がどれだけできるのか。
以前から何度か書いているが、病院で亡くなった親族のように、在宅療養の可能性と時間的猶予も十分ありながら、病院側から全く提案がなく(在宅医療の可能性を考えた形跡がなく)、最後は家族に看取られることもなく、ひとりで逝ってしまった、そういうことのないように、在宅診療の機会が与えられることを願うばかりである。

<2020/10/31 掲載>