第40回 がんと終活(4)2020:04:10:05:39:15

産経新聞社 社会部記者 北村 理

ここまで3回にわたり紹介してきた4人の事例について、取材で出会った幾人かの大腸がん専門医に対し感想を求めた。共通した回答は以下の通りだった。
・がんの治療の実態について、検診の効果も含め、一般市民のみならず、医師など医療者にもまだまだ知られていない。
・治療が高度化して生存率は確かにみかけでは上がっており、多くの医療施設で高度な治療が受けられるかのようにみえるが、治療効果という点では依然として、医師間、施設間の力量のギャップは埋められていない。
・力量のギャップを埋めるための、病院間ネットワークが進んでいない。
・こういったディープな、命にかかわる情報を市民に知らせる方法がみあたらない。
といった具合だ。

ある医師は、「再発で送られてきた患者をみると、最初の治療がちゃんとなされていたらこうはならなかったはずと思われるケースも少なくない」という。

別の医師は、「最先端医療ができる病院でも、技術が伴っていないケースもある」と断言する。なぜ、このような事態が起きるのか?と問うと、多くの病院でがんを扱うこと、高度ながん治療を手掛けることが目的化していて、それらの治療がどのような結果をもたらすのか、また、そのことを正確に患者に伝え、どうすれば患者が望む医療を提供することができるのかを実践しようという姿勢に欠けているのではないか、ということであった。

それでも、ある医師は、私がこの欄で紹介した3人のキャリアウーマンについて、「検診を受けていれば、と他人がいうことはたやすいが、実際初期の大腸がんで治療を受けるケースはそう多くはない。恐らく何らかの体調の変化にはきづいていても、結果として仕事を優先した選択を責めてはいけないと思う。今となっては、それが彼らの人生だったというほかはない。自分だったらどうするといわれても、この医師に治療してほしいという情報は自分なりにもっているが、その時になってみないとわからない」と話した。

手元に亡くなった60代の女性からの最後のメールがある。東日本大震災で津波に巻き込まれ海に沈んだ知人の女性が、最後の気力をふり絞って、うかびあがり生き延びた話を紹介したことへの返信だ。「ぜったい生き延び、その人に会いに行きます」とある。
       
今はせめて桜をながめるたび、4人のありし日を偲び、心の中でただ合掌していようと思っている。

<2010/4/10 掲載>