第21回「2025年問題って何?」2015:05:07:23:08:35

産経新聞社 社会部記者 北村 理

最近は、100歳でも手術を受けられる。医療環境の進展もあるが、現在の70歳は10年前の60歳ぐらいの体力があるらしい。むしろ、がん・在宅医療の現場では、高齢者の独居、老老世帯、認知症の増加で、がん治療を進める際に、コミュニケーションギャップが生じやすくなっていることが問題だという。今後、高齢者と医療者のコミュニケーションを支援する体制の充実に本腰をいれないと、医療技術が向上し、患者の選択肢が増えることとは裏腹に、患者のQOLが低下するのではないかと懸念する声もあがる。

一方、医療者側は、在宅医の高齢化が進み、若手医師は、負担感のあるがん・在宅医療を敬遠する傾向があるという。

先日、重度心身障害児の在宅療養支援をしているクリニック医師と話していたら、「若い医師が見学にきて、子供や親をみて『気の毒な人たちですね』というんです」と憤慨していた。健常者が病気になり、病院で治療を受ける。そして、日常生活に戻る。その手助けをするのが「医師の仕事」だと思っている。これは大いなる勘違いだ、とこの医師はいう。

この医師が進める障害児の在宅医療では、人工呼吸器を離せない子供たちも家族とともに過ごし、学校にも行く。よりよく子供らしく生きることをサポートする。時には亡くなることもある。ある子は、自宅で兄弟や父母の家族全員が一緒にいたにもかかわらず、その日に限って、家族全員が眠り込んでしまい、そのわずかな間に息をひきとったこともあった。その医師は、泣く母親に「きっと感謝しているよ」と声をかけていた。

団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題では、高齢化率の上昇にともなう医療費の増大に目が行きがちだが、医療のあり方そのものが問われている、と思い始めている。

<2015/05/07 掲載>