がんで医療を変えよう。第1回「ネットワークが課題」 産経新聞社 文化部記者 北村 理さん2011:04:20:00:03:37

第1回 ネットワークが課題

東日本大震災は、犠牲者が3万人にのぼろうという戦後最大の災害となった。次は西日本での大津波地震の発生が懸念されているが、津波から身を守るには避難するしかない。避難という行動はそれぞれの住民が自分の意思で行うものだが、その行動を支えるのは地域のネットワークだ。

この場合の地域のネットワークとは、自治会、学校、行政、企業、商店などを指す。安全な避難を可能にするには、高齢者など災害弱者への避難の呼びかけ、避難の妨げになるような放置物の排除、避難場所としてのビルの開放、渋滞を起こさないための車での避難のルール化などが必要だ。

こうした個人の安心安全を地域のネットワークが支えるといった構図は、がん治療にもあてはまる。

ある患者が地域のがん専門病院でがんの診断、治療を受けたのち、外来での通院治療を始めるとする。
その場合、地域の病院や診療所、訪問看護、介護事業者、公的補助などを行う行政、家事の手伝いなどのボランティアなどがかかわることになる。
こうしたネットワークが地域でうまく機能している所は全国でもまだ少ない。しかし、年々ふくらみ続ける医療費のスリム化を図るため、国は、がんの予防や、病院から在宅での医療への移行に力をいれており、がん治療をめぐる地域のネットワーク形成は今後も進められるだろう。

がんの医療ネットワークの先進地である長崎では、「地域全体をひとつの病院とすると、その病院内の各科にあたるのが治療や介護を行う各施設、病室にあたるのが各家庭」
というイメージを打ち出している。
こうした医療ネットワークは防災の地域ネットワークの一翼も担う。医療や介護施設は個人情報を保持しており、安否確認に有用であることは近年の災害時の対応でよく知られているところだ。

戦後、核家族化や都市化が過度に進み、地域力の低下による社会の不安定化が叫ばれて久しいが、今注目を浴びている医療や防災のネットワークが、新しい社会の創造に寄与するのではないかと考えている。