第2回「患者からの声が大切」2011:05:28:17:10:58

産経新聞社 文化部記者 北村 理

東日本大震災の被災地に行ってきた。現地の人にきくと、2か月たって、ようやくガレキの間に道ができた程度だという。
津波は跡形もなく、ありとあらゆる建造物をなぎたおしていた。かつての戦争の空襲の跡とでもいおうか。

とにかく、〝焼け跡〟からの復興の動きが顕著になってきた。それに便乗してか、霞ヶ関のプロジェクト案が思わせぶりに報じられ始めている。

厚生労働省も、在宅医療介護のネットワークづくりに力をいれるのだという。

のっけから冷水をあびせるようだが、行政や医療者側から主導して、在宅医療介護は進まない。なぜなら、在宅は患者の自宅が舞台であり、治療を行うと同時に生活の場でもあ
り、主導権は患者側が握っているからだ。

「もう来ないでくれ」といわれればそれまでだ。病院とは全く立場が逆転する。それにとまどう医師など医療者も少なくない。こういったことが在宅医療介護のネットワークが進まない原因のひとつになっている。

それではどうすればいいのか。在宅のネットワークが充実しているオーストラリアの緩和ケア医にきいてみた。そうすると意外な答えが返ってきた。

「患者自身が、よりよい環境づくりを目指して、声をあげていくしかない」。

がんの治療の現場でよく問題とされる医師と患者のコミュニケーション不足、治療方針をめぐる医療者間の対立、医療機関どうしの連携不足などは、どこの国でも同じなのだという。 加えて、その医師はニヤリとしていった。「患者とコミュニケーションをとる能力にたけているのは医師より看護職だというのは万国共通で、オーストラリアも例外ではない」という。

ただ、日本との違いは、患者側が声をあげ、その要望を適切に政策化する仕組みを国をあげて整えているところだという。

話の終わりで、その医師は「医師がいくら研鑽を重ねても、患者の痛みは患者にしか分からない。それをどう医療者と患者が共有するか、この真理は医療における永遠の課題だ。共に闘おう」と手を差し伸べた。

今の日本人にはとりわけ心に響く言葉だと、大震災後だから特にそう思う。